博士号論文『580年間に作られた脳』 -第3章 発展編1-

第3章   発展編1     【NO.11,35】

       食事による体質改善方法
            (第1の物差し)

 1節)風土の違いによる食生活

 この節は、子供の内部環境に影響を与える食物を、風土の違いからどのように捕えるかを説明した第一の物差し「地球規模的風土」による食生活の捕らえ方を述べる。勿論、この物差しは一つの見方であり、個人が適度に選択し、時代と共に変化することは言うまでもない。

 A:赤道近辺の国と北極近辺の国
         【3表-1「地球規模的風土」】
 20世紀末の現在の地球において、北極・グリ-ンランド・北欧そしてロシアの北部は、日本・朝鮮・中国・アメリカそしてヨ-ロッパより寒い国であり、農業や牧畜業が行われにくい所である。このような国々の人達は、厳しい寒さを防ぐために動物の毛皮を身に付けると共に、体の内部からエネルギ-を作り出す生肉を食べて、動物性タンパク質・脂肪をとっている。勿論、彼らは、私達のように一部の肉をステ-キとして取るのではなく、丸ごと、しかも内臓をも上手に食べている。今は少し様子も変化したが、エスキモ-人は動物性タンパク質や脂肪等をアザラシの肉からとるあまり、野菜が不足しやすいので、ビタミンやミネラルが豊富に蓄積されたそれら動物の内臓を食べている。 一方、ロシアの北部・スイス・デンマ-ク・ドイツ等国々は、先程の国々よりは寒さが厳しくないし、牧畜ぐらいは可能な国々である。だから、これらの国々の人達は、エスキモ-人のように極端な肉食に偏らずに、牛乳・チ-ズ・バタ-などの形で動物性タンパク質・脂肪等を摂取している。このように、最も寒さの厳しい所では農業や牧畜業が出来ないため、生肉を丸ごと、しかも内臓をも一緒に食べる習慣がある。また、北極よりは少し寒さが和らいだスイス・デンマ-ク等の国々では、加工食品の形で動物性食品をとっていても、害も少ないようだ。これぞ風土が作り出した食生活だ。


 一方、これらの国々とは正反対に、また日本よりさらに暑さの厳しい国々――インド・パキスタン・東南アジア等――は、一体どのような食生活文化を持っているのか。これらの国々は環境が非常に暑い所であるため、体全体がほてり、体内の糖質を消費し、塩分や水分等を汗として外へ日本人以上に排出してしまう。私も10年前にパキスタンのモヘンジョダロの遺跡や砂漠で、気温が45℃~46℃になったのを経験したが、自然の脅威と偉大さを知った気がする。自然とは不思議なことをするもので、このような暑い国は、寒い国よりはるかに豊富な食物が与えられている。特に、さとうきびや果物から糖質を補給したり、香辛料・食塩を大量に摂取している。そして、彼等の食事は日本食のように淡白ではなく、味がはっきりしている。一般にインド・パキスタン・東南アジア等の国々は香辛料が多いため、日本の食事より辛く、食後に出てくるものは、果物や糖質の多いプリン状の甘いものである。実に自然の理にかなった食生活を各々の国は生みだしている。ここで、エスキモ-が肉を丸ごと、しかも内臓まで食べているから肉の害が少ないように、インド・パキスタン・東南アジアの国々においては、暑さや労働・運動等で消費した糖質を補給する必要上、甘いものを多くとってもこれらの国々では害が少ないようだ。
 逆に、インド・パキスタン・東南アジアの暑い国々では、脂肪という蒲団を着すぎる結果となるチ-ズ・バタ-等(寒い国のもの)の多食をすることが風土的に適していないようだ。この理由からだろうか。ヒンズ-教徒の国インドでは牛を食べず、イスラム教国のパキスタン・サウジアラビア等では脂肪の多い豚を嫌い、そして仏教国のタイや戦前の日本等では四つ足動物を避けていた。勿論、この理由は、(一)農耕民族と遊牧民族との違い (二)経済的な事柄 (三)宗教的理由、等があるようだ。しかし、このような理由だけなのだろうか。
 宗教はその国の風土環境から生じるものだから、その宗教の創始者が自然の摂理を十分に心得て戒律を作ったのではないか。何れにせよ、このような暑い国々においては、肉の過食はあまり良い結果を生まないことを知っての卓越した考え方があったのであろう。
 以上のように、インド・パキスタン等の国は、暑い国であるために、砂糖・果物・香辛料・塩を多く摂り、逆に動物性タンパク質や脂肪を多く摂り過ぎないようにしている。そして、北極・グリ-ンランド・北欧そしてロシアの一部は、逆に砂糖・果物をあまり多く取らず、生肉を丸ごと食べている。このような食物の取り方は、国際自由貿易の拡大原理には適していないが、地球規模的風土からは自然の摂理に適しているようだ。


 B:温暖地方の国

 日本・韓国・中国・米国・西欧等の国々は、北極に近い国々程は寒さも厳しくなく、赤道近辺の国々程は極端に暑いくもないので、自然界は適度に動物性食品や果物等をそのような国々に与えてくれたようだ。そこで、もし私達日本人が北欧の人達のように肉や乳製品の過食を続けたり、しかも赤道近辺の国々のように砂糖を多量に摂るならば、地球規模的風土から考えると、私達日本人にとっては好ましくないように思われる。
 アメリカ人や西欧人は、彼等の食欲における旺盛さと経済力故に、この地球規模的風土から見た自然の摂理を考慮しなくなった。彼等はエスキモ-人と同じかそれ以上の動物性タンパク・脂肪を過食し、インド・パキスタン人以上の果物と白砂糖をも摂取している。しかも、彼等は風土的環境を考慮しなかっただけでなく、肉の内臓をも同時に食べることをしなかったし、また嗜好飲料水や菓子等で精製し過ぎた砂糖をも多量に摂っていた。欧米人のこのような食生活によって、今日の現代病と言われる癌・脳出血・心臓病そして糖尿病が増加していることが、ようやく日本でも言われるようになった。このことについては、米国人も約15年前にアメリカの上院栄養問題特別委員会が今日の現代病を食源病と呼ぶようになってから気付き始めたようだ。
 一方、今日の日本の食生活は、欧米型の食生活のように動物性脂肪・動物性タンパク質・精製し過ぎた白砂糖の消費が多くなっている。そして、この欧米型の食生活が定着し始めた昭和33年ぐらいから、この変化に呼応するかのように、従来1位の座を保ってきた結核患者の死亡者が1位の座を脳卒中患者の死亡者にその座を譲った。さらに、今日の日本は欧米ほどの動物性食品と白砂糖の消費量は多くないものの、死亡者の60%近くが癌・心臓病・脳溢血の三大病である。
 今日の日本の食生活を菜食主義にし、砂糖を絶対取らない方が良いと言っているのではなく、地球規模的風土という違いを極端に無視し、しかもバランスのとれているものを崩してまでも、極端に精製し過ぎてはならないということである。さらに、食生活をカロリ-学的に捕えるだけでなく、風土からその食生活を相対的に捕える必要がある。例えば、私が寒い北欧・ロシアの一部・グリ-ンランドへ単身赴任することになったり、または永住するようなことになれば、私は彼等のように動物性食品を多く食べるであろう。しかし、南国――インド・パキスタン――に永住することになれば、日本にいる現在より動物性食品をより一層減らし、逆に果物や精製しない砂糖を多く摂る必要がある。 このように食生活をその風土との関連の下で、相対的・流動的に捕え、成分や量としてのカロリ-等だけで固定的に考えてはならないようである。食生活の世界にも、寿命の捕えたと同じようにコペルニクス的展開が必要になってきた。


 C:日本風土の特殊性―(酸性土壌)

 風土の違いによる食生活を考えるには、日本風土の特殊性をも考慮しておかなければならない。日本の多くの土壌が酸性土壌であり、ヨ-ロッパ大陸のそれがアルカリ土壌であることも周知の事実である。
 それは日本が火山国で、土地が火山灰等のためである。一方、ヨ-ロッパ大陸は大理石を多く産出するように、日本とは逆のアルカリ土壌になっている。このような土壌の違いがその土地の食物や水質の違いを現す。後に詳しく述べたいが、日本の土壌が酸性土壌であるということは、カルシウム(Ca)やマグネシウム(Mg)という無機質がヨ-ロッパ大陸やパキスタンの土壌より少ないので、そのため日本のトマトにおけるCaの含有量はヨ-ロッパの1/4倍位しかない。
 次に、ヨ-ロッパの水は硬水(通常は100ccの水に酸化カルシウムを10mg以上20mg以下のものを言う。酸化マグネシウムの場合は14mg以上28mg以下)と呼ばれ、それにたいして日本の水は軟水(前者が10mg未満。後者が14mg未満)と呼ばれている。これは、日本の水質がヨ-ロッパのそれより酸性水質であることを意味する。海の幸はカルシウム含有量のみで考えただけでも、その含有量が多いと言われていた牛乳より数10倍も多い。だが、現代の子供は地球規模的風土や日本の特殊性を知らず、そして海藻類や魚類を食べずに、風土の違った国々の動物性食品(一般に、肉類のカルシウム含有量は100g中10mg以下)に片寄り過ぎている。
 これは、母親が「地球規模的風土」や「日本の特殊性」等の教育を受けておらず、子供の体格・身長を大きくしたいという量的・局所的概念に目を向け過ぎたため、三大栄養素を重要視してしまったからだ。だから、多くの若者は肉の動物性食品からタンパク質や脂肪を摂り、魚類から摂らなかった。しかも、エネルギ-としての精製しすぎた白砂糖を過食したため、彼等は益々カルシウム不足に陥り、特に子供たちは昔の子供より歯を磨く習慣を身に付けたのにもかかわらず、頻繁に歯科医院に通わなくてはならない。また、最近では、転んだだけで骨を折る子供が増加していると言われている。