博士号論文『580年間に作られた脳』 -第3章 発展編2-

第3章    発展編2     【No11,33】

         食事による体質改善方法
               (第2の物差し)

 (2節)『酸度・アルカリ度』
              シ-ソ-システム

 1)酸性・アルカリ性食品とは

 初めに「酸性食品」と「アルカリ性食品」の定義を述べる前に、「アルカリ性食品」と 「酸性食品」との判断基準は、その食品に含まれている無機質の種類と量による。 一般には、無機質(ミネラル)の中のカルシウム(Ca)・カリウム(K)・鉄(Fe)・マグネシウム(Mg)のように生体内でアルカリ性を示す元素が、無機質の中のリン(P)・塩素(Cl)・イオウ(S)等のように生体内でリン酸・塩酸・硫酸を作って、酸性を示す元素より、含まれる量が多い食品を「アルカリ性食品」と言う。逆に、「酸性食品」とは、カルシウム・ナトリウム・カリウム・鉄・マグネシウム・よりリン・塩素・イオウ等がより多く含まれている食品のことである。
 ここで、アルカリ性食品と言っても、逆の酸性を示す元素を内包していることは、前の定義からでも理解できる。そして、この二大分類には若干の例外があるものの、一般的傾向がある。それは、アルカリ性食品には海藻・果実類等植物性食品が多い。そして、例外としては米・そば・小麦等の穀物やアスパラガス・くわい・海苔で、これらの植物性食品は酸性食品。さらに、次の一般的傾向としては、酸性食品には卵黄・数の子・肉類・魚介類のように動物性食品が多い。そして、例外としては、人乳・牛乳が中性か弱アルカリ性食品である。
 次にアルカリ性食品・酸性食品には、当然ながら、それらの元素(無機質)の含有量の多少により強弱がある。だから、それを数値化して表したものがアルカリ度・酸度と言われているものである。即ち、食品中のアルカリ性を示す元素(Ca・K・Na・Mg・Fe)と酸性を示す元素(S・P・Cl)の量の度合いを、食品のアルカリ度・酸度と呼んでいるわけだ。そこでわかめのようにアルカリ度15.60を+15.60と、卵黄のように酸度18.80を-18.80と表す。このようにして作られた表が、「食品成分表」(第一出版)にまとめられている。ここでは3表-2をもとにして考える。     【3表-2  食品のアルカリ度表】
 さてただ単に食物の持つ成分の含有量だけで論じて、その食品が酸性食品・アルカリ性食品であると解釈するのは、正しくないようだ。というのは、梅干や白砂糖のように特殊な食品があるからだ。精製し過ぎた白砂糖は、3表-2の中に現れてこないが、これが体の中に入るとアルカリ性の横綱級であるカルシウム(日本の土壌で不足がちになるCa)を同時に消費してしまい、理想である中性か弱アルカリ性の血液を酸性化させるといわれている。無論、健康体の人は恒常性(ホメオスタシス)が働いていることは言うまでもない。また、これとは逆に梅干についてだが、この梅干は生梅が青酸を含んでいるように強い酸性食品だが、人間の知恵により、日光にさらされ、紫蘇やpH七.七の弱アルカリである天然の食塩等が加わって、本来の酸性の力が弱らされている。さらに、この梅干は体内に入ると、持って生まれた酸性としてでなく、逆のアルカリ性として働く。だから、日本のように特異な酸性土壌という外部環境では、白砂糖や動物食品の過食によって血液が弱酸性へ傾くのを「体液の調節機構」などだけにまかせず、「どんな食品がアルカリ度・酸度が強く、またどんな食品が体内でアルカリ性か酸性の側面を現すか」を知っておくことが大切だと思われる。
 以上、内部生命力に影響を与えているであろう内部環境、そしてこの内部環境(体液・細胞組織)を作るために最大限に活躍している食物を、従来の三大栄養素による量や力としてのカロリ-学とは違った角度から、特に人間の体組織の成分や色々の生理作用として働いているミネラルという立場から捕えた。即ち、内部生命力の豊かな子供達に影響を及ぼしているであろう食物を、酸性・アルカリ性食品という立場から調べてみたわけだ。そして、それを簡単に3表-3のようにまとめてみた。
     【3表-3  酸性食品アルカリ食品】


 2)アルカリ・酸度のシ-ソ-システム

 【3表-4 アルカリ・酸度シ-ソ-システム】
 この3表-4は「第二番目の物差し」を表している。この表は、食品成分表の3表-2を参考にして、子供が遊びに使うシ-ソ-のようにバランスを考えて食品を捕えられるように作り替えたものである。まず、この表からどのようなことが言えるのであろうか。箇条書きにしてまとめておきたい。
  (a) 前述したことだが、酸性食品には卵黄・数の子、赤身の魚、肉類そ        して主食である穀物等が見受けられること。一方、アルカリ性食品には       昆布・わかめ、果物そして緑黄色野菜が目に付くこと。
  (b) 赤子になる前の卵は酸度が最も大きく、生まれた後の赤子のために与え       られた人乳・牛乳が、弱アルカリ性食品であるということ。
  (c) 伝統的加工食品の中には、洋の東西を問わず、酸・アルカリ度が「0」      に近い食品がある事。即ち、日本の味噌・醤油・豆腐・沢庵漬、そして       欧米のチ-ズ等が中庸としてのバランスのとれた加工食品であること。
  (d) 魚介類の中では、ヘモグロビンとミオグロビンを含み、活動量の大き       い赤身の大型魚が白身の小魚や貝類より一般に酸度が大きいということ。
  (e) 一般に主食は酸度が大きく、副食としての野菜はアルカリ度が大きい       こと。しかもデザ-トとしての果物もアルカリ度が大きいこと。
  (f) 米飯(酸度大きい)と一緒に摂りにくい清酒・ビ-ル等は、穀物と同       属であるが故に酸性食品。食事の後に飲む茶・ブドウ酒・コ-ヒ-は、       逆のアルカリ度が大きいアルカリ性食品。
  (g) 欧米の食事は、脂肪・コレステロ-ル等について考えずにこの表のみ       で見るかぎり、即ち「食品のアルカリ・酸度のシ-ソ-システム」とい       う点から見れば、バランスがとり易いものであること。一方、わかめ・       ひじき・椎茸等を食べて脂肪・コレステロ-ルをコントロ-ル出来る日本食     は、一般に酸・アルカリのバランスが取りにくい食事であること。
  (h) ヨ-ロッパの食事は、土壌・水質がアルカリ性の側にあり、(g)の       ように酸度が極端でないため、さらにバランス(脂肪・コレステロ-ル       に関しては除く)が取り易いこと。しかし、日本の食事は、土壌・水質       が酸性の側にあり、(g)に示したように酸度が大きいため、わかめ・       昆布そして野菜等でバランスを取る必要があること。
 以上(a)から(h)のように、この3表-4から読みとれる事柄を列挙してみた。
 3)生命活動と食品の関連性

 2)で述べた(a)から(h)の事柄から食生活と生命活動の関係を、量と成分としてだけでなく、相対的にそれでいてバランスを取るという見方・考え方で捕えてみる。
 まず、(b)に記したように人乳や牛乳が弱アルカリ性食品であることと、そのような食品の酸・アルカリ判断とは違うが、人体の血液は中性か弱アルカリ性であると言うことをも同時に考えてみると、人間の体液は一生を通じて中性より、弱アルカリ性に維持されることが大切なようだ。特に、内部生命力が豊かな赤子は、不完全であるため単品でも完全食品である母乳から栄養を取り、しかも非活動的生命体であるが故に中性食品に近いそれを取るのだろう。また、社会に貢献してきた年輩者は内部生命力が衰えて非活動的になって来たが故に、栄養豊かな完全食品や強酸性食品を避けて、中性か弱アルカリ性食品である鶏のス-プ・海苔・子魚・貝類そして(c)のような豆類・根菜類等を多く摂ることが必要なようだ。このような食事は体液のpH調節機構を間接的に高め、体液の弱アルカリ性が一生のサイクルで行われるように助けているものと考えられる。
 また、(b)で示したように卵黄や数の子は何故に酸度が最も高いのだろうか。そもそも卵から一つの生命体が世に出ることは、実に素晴らしいことであり、最もエネルギ-を使うことのようだ。このことに関しては内部生命的時間で述べたように、精子と卵子が結合した後の時期は、卵からひよこに変化する程生命が活発化する時なので、卵や数の子は極酸性食品として作られているのであろう。何れにせよ、卵や数の子は生命力あふれる極酸性食品である。だから、栄養失調になっている人や激しい肉体労働を行っている人には、この食品も良いものである。しかし、(a)で示したように、そのような人も逆の強アルカリ食品である昆布・わかめで酸性食品とのバランスを取って食べることを忘れてはならない。
 現代の子供の偏食はこのような「第二の物差し」から見ても確かに好ましくない。彼等は運動量が少なく、体内に入って酸性食品以上の影響力を持つと言われている精製し過ぎた白砂糖を多く取り過ぎ、しかも逆の力であるアルカリ性食品の昆布・わかめ・茸等が嫌いで、さらにアルカリ食品の関脇クラスの根菜類をも好まない。勿論、そのような子供の中には、コ-ヒ-や果物を多く取ってこの第二の物差しを上手に操っている者もいる。


 次に、一日の食事をどのように取るのが良いのだろうか。私達は、(一)穀物である米や小麦粉が酸性食品であること (二)動物性の肉や魚が酸性食品であること (三)血液が中性か弱アルカリ性であること、の三項目を知りながらも、何故これら酸性食品を逆のアルカリ性食品と共に取るのか。多分、人間は頭脳労働だけ行っているのではなく、肉体労働をも行っているからかもしれない。肉体労働には酸性食品が必要だ。となると、朝食と昼食は一日の活動を支えるようなものであり、アルカリ性食品と共にバランスを摂りながら酸性食品を食べる必要がある。しかし、夕食時は、私達が一日の活動を終え、睡眠へ向う時期なので、血液を本来の弱アルカリに持って行き易いようなアルカリ性食品にした方が良いと考えられる。ということは、夕食も主食の酸性食品である穀物を取るから、弱アルカリ性食品の根菜類や豆類、強アルカリ性食品の海藻類等を多く摂り、酸性食品の動物性を減らして、夕食全体をアルカリ性食品に傾ける方が良い訳だ。要するに、一日の食事のサイクルは、前半は酸性食品とアルカリ性食品の中で中庸を取り、後半はアルカリ性食品が主流になるようにすることが理想的である。
 今、一日の食事のサイクルを酸性・アルカリ性食品で考えてみたが、それでは私達の一生の食事のサイクルを同じように酸性・アルカリ性食品で考えてみよう。胎児期は、精子と卵子が結合して出産するまでの約10ヶ月間(内部生命的時間では580年間)だが、この期間は卵黄や数の子に対応する時期と考えると、最も酸度の高い時期のようだ。次に、乳児期は、人間として不完全な時で、しかも運動選手のように活動的でない時期のためか、人乳・牛乳のような完全食品でしかも中性か弱アルカリ性の、アルカリ度0から+3近辺の食品を取る時期のようだ。幼少年前期は、活動が活発になり、自ら選んで食べられる時期のためか、酸度が0から-7近辺の酸性食品を、逆のアルカリ性食品と共にバランスを考えて食べられる時期と考えられる。さらに、最も社会活動が激しくなる青年後期・成人期は、酸・アルカリ性食品でバランスを取りながら、活動のためには酸性食品をも食べなければならない時期だ。高齢期は、社会で活躍されて来られた後の時期で、人間本来の血液が中性か弱アルカリ性であることをも考慮すると、酸度が0から-5近辺の酸性食品を、逆のアルカリ性食品と共にバランスを考えて食べられる時期のようだ。以上のように、「一日と一生」の食生活のサイクルを食品のアルカリ度・酸度から捕らえてみた。これをまとめたものが3表-5である。
           【3表-5  「一日と一生」】



 4)シ-ソ-システムから見た食事

 ここでは、化学的方法を知らぬ先人達が作った食品や料理方法を、東西問わず、3表
-4の『アルカリ・酸度のシ-ソ-システム』(第二の物差し)で捕らえてみよう。
 まず、伝統的加工食品が何故に牛乳や人乳のような中性食品に近いところにあるか。
伝統的加工食品である味噌を利用した味噌汁は、実にこの「第二の物差し」から見ても
理想的食品だ。この味噌汁は、湯の中に中性食品の煮干しや酸性食品の鰹ぶしを入れ、
しかも一般には大根やじゃがいも等のアルカリ性食品を入れて、最後に中性食品の味噌
を加えて作ったものだ。
 次に魚料理だが、魚自身は酸性食品で、弱アルカリ性の天然塩(一般の塩はpH10.7の強アルカリ)をこの魚に振り掛けることは身が崩れないだけでなく、「第二の物差
し」から判断しても正しい。しかも、アルカリ性食品の大根卸しを添えることは、ビ
タミンCや繊維を摂って消化を助けることの他に、この酸・アルカリ性食品という立場
から判断しても理想的だ。
 昔の多くの僧侶は、動物性食品を出来るだけ避けるような精進料理を食べていた。こ
の精進料理は、酸性食品の穀類に、中性食品の味噌・醤油・油揚げ・豆腐・沢庵等や、
アルカリ性食品の根菜類などによって作られたものだ。今でもこのような食事を行っている人達に、永平寺のような修業僧がいる。
 このように「第二の物差し」である『アルカリ・酸度のシ-ソ-システム』から、先人達が作り上げてきた食品を見ると、あたかも彼等が食品を中性か弱アルカリ性という概念で、捕えていたかのようにすら感じられる。このことは遊牧民族のヨ-ロッパ人にとっても、同じようなことが言える。その例としては、中性食品で日本の豆腐に相当するチ-ズだ。勿論、動物性タンパク質と植物性タンパク質の違い等はあるが、あの「第二の物差し」から判断すると、チ-ズは中性食品だ。また、彼等は日本の魚に相当する動物性食品としての肉を食べるとき、酸性食品である肉にアルカリ性食品の塩やこしょうを振り掛け、時にはアルカリ度の強いブドウ酒やトマトケチャップを掛けている。勿論、彼等は、このような肉に中性のパン、アルカリ性の野菜やブドウ酒を添えて、バランスを取るかのように食事をしている。しかし、欧米人は過食や運動不足等のために、コレステロ-ルや脂肪という点で今日問題点を抱えている。一方、私達日本人も風土的判断の誤りやこのようなバランス感覚の取り方を忘れたために、同じような問題点を今日抱えている。